これまでこのブログで、過去のミステリー作家について多く書いてきましたが、今回は現役の作家で私が一番好きな島田荘司について書こうと思います。
島田荘司について語るには、まず日本の推理小説史について語らなくてはなりません。
戦後すぐにおこった、横溝正史や高木彬光などを中心とした『本格推理小説』ブームは、1960年代に入ると松本清張などに代表される『社会派推理小説』ブームによって取って代わられます。『社会派推理小説』とは、従来の推理小説の様に遊戯性の高いものではなく、社会問題などをテーマにした重厚でリアルな描写の推理小説の事です。当然、超人的な推理で現実離れした事件を解決する『名探偵』などと呼ばれるキャラクターは敬遠され、新聞などで見かけるようなリアルな事件を地道な捜査でコツコツ解決する『刑事』が主人公となる作品が増えていきます。そんな『名探偵』が絶滅の危機に瀕していた1981年、発表されたのが島田荘司のデビュー作『占星術殺人事件』なのです。この作品はもともと乱歩賞に応募したものですが、最終選考まで残るも結局は受賞できませんでした。しかしそれでも選考委員がこのまま埋もれさせるには惜しいということで、加筆修正をしてようやく出版に至った経緯があります。名探偵・御手洗潔が颯爽とデビューする本作は、当時の文壇からは非難轟々だったそうですが、一方『社会派推理小説』全盛時代に飽き飽きしていたミステリーマニアの間からは大絶賛の声が続々と上がりました。そしてこの作品に触発されて、綾辻行人、有栖川有栖、法月綸太郎、我孫子武丸、歌野晶午といった若い才能がミステリー界に飛び込んでいきます。そしてそれは『新本格ミステリー』という大きなムーブメントとなり、今日へと繋がっていくのです。つまり島田荘司が『占星術殺人事件』を発表しなかったら、今日のミステリーブームはなかったと言っても過言ではないのです。そんな島田荘司の作品の中で、私がおすすめしたい7作品をご紹介します。
①占星術殺人事件
1936年2月26日。ある画家が自宅の密室状態のアトリエで殺された。そして現場に残された遺書には怪奇な内容が記されていた。それは若い6人の処女からそれぞれ体の一部分を切り取り、それらを合成して完璧な肉体を持つ女性『アゾート』を作成するというものだった――。現代ミステリーはこの一冊から始まった。日本ミステリー史に残る衝撃的なデビュー作。また2012年に『週刊文春東西ミステリーベスト100』でも、堂々の3位と現役作家では最高の順位にランクされています。
②斜め屋敷の犯罪
宗谷岬の高台に斜めに傾いて建つ『流氷館』。この奇妙な館の主人がクリスマスパーティーを開いた夜、奇怪な密室殺人が起こる。招かれた人々が狂乱する中で、またもや密室殺人が――。もはや形容する言葉も要らない、日本を代表する『密室もの』の傑作。またこの作品にインスパイアされて、綾辻行人が『館シリーズ』を発表したことも考えると、日本ミステリー界に与えた影響も計り知れません。
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