最近読んだ本を紹介します。魅力が伝われば幸いです。
親が別荘の持ち主である・貴子、その別荘の管理人の娘・永遠子。二人が別荘で共に過ごした幾編の夏。そして、疎遠になった現在。その二人の二つの時代が、夢や思い出、記憶として交錯する。
二人が共有する思い出もあれば、互いに違うものが存在していた記憶も重なり、どこまでが記憶で、現実で、夢なのか。夢の中に現実があるような不思議な体感を、この著者はえがいている。
雨が降り、取り込んだはずなのに次の瞬間にはまだベランダに洗濯物がかかっている。起き上がって取り込むが、次の瞬間にはまた取り込まれていない洗濯物が目に映る。また取り込むがまた取り込まれていない。そんな、夢の中と現実が交錯している夢を見たことが、自分にもある。貴子と永遠子の描写の中で、夢なのか現実なのか互いにからまって幻想的な表現になっている場面が、多数存在する。あくまで、幻想の世界。現在に問いかける過去の自分。現実と夢。そのはざまが、おぼろげになっている。
自分も過去に思い出として残っているものの中に、「もしかしたら夢だったかも」と思える場面があるが、それを文学として表現できる著者の技量に脱帽する。「もしかして夢?それとも現実?」といった表現をあえてぼやけた様で表現しているところが素晴らしく思える。さすが芥川賞受賞作。引き込まれた。
自分にも幼少期の、誰かと共有できるような大切な思い出、記憶が、少しだけある。そのかけがえのなさも、著者の思惑とは異なった形になるだろうが、しっとりとこころに積もっていく。過去に生きる自分の姿はあどけなく、また、残酷であったりするが、それも経験してきた大切な思い出の一つ。決して戻れないが、戻ろうとも思わない。それは、思い出としてしっかり残っていたり、消え去りそうになってもまた別の思い出で補完できる。そんな思いがあるからだと感じる。この本では難しい心理描写が幾重にも現れ、読み手もまどろんだ状態で本に埋もれる。そこまで計算されて「夢と現実」が交互に現れる表現方法を取ったのかは解らないが、非常に引き込まれることは確かだ。読んでよかった。
ゆうき
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