主人公は田んぼに囲まれた県立高校に通う高校二年生。ごくありふれた高校だが、ひとつ、変わった点がある。それは、文化祭に「田高マニア」と呼ばれる、ライブイベントが開かれるということ。田高マニアはロックやヒップホップなど、多岐にわたって参加者が楽曲を披露し、クオリティーの高さが他校を圧倒、一般観覧車も多数存在するという一大イベントだ。そのライブに過去、主人公の兄がギタリストとして参加していたことで、そのステージに魅了された主人公は田高に進学を決める。そして春、田高に入学した主人公は軽音楽部に入部を決め、いよいよ田高マニアに向けてバンド始動!と行くはずが、兄の卒業後、田高軽音楽部はすたれ果て、上級生の喫煙の隠れ蓑としての存在でしかなかった。それどころか、上級生が麻薬に手を出したことが発覚、軽音楽部は廃部の危機に。そこへ、幽霊部員だった主人公の同級生が部に復帰し、部の存続を校長に直訴する。交渉の末、「田高マニアでの成功」などを条件に、存続が認められる。その後、ドラムやリードギターの獲得に成功し、波乱万丈の末、田高マニアへの参加、それも大トリを任せてもらえることが決定。部員は狂喜乱舞するも、田高マニア1ケ月前になってリードギターの担当が腕を骨折するという大事件が。はたして軽音楽部は、無事にライブを成功に導くことが出来るのか―。
主人公が気と押しの弱い頼りない様子だった前半から、仲間ができ、応援してくれる存在ができ、部長としてみんなの信頼を勝ち得ていく後半部分まで、あっという間に引き込まれてしまい、田高軽音楽部を応援しながら読み進める形になった。感情移入がすんなりできて、「ガンバレ!」と思いながら読めた作品に久々に出会えた気がする。主人公の「みんなで、ライブを成功させたい」という気弱ながら熱血ぶりがにじみ出る様が、ギャップがあって面白い。「見張り番で終わってたまるか、バンドがしたいから軽音楽部に入ったんだ」という想いや、「白い目で見てくるやつらを見返してやる」という感情を、ライブ成功へ導く起爆剤にしてどんどん成長していく姿に、読み手の心をつかんで最後まで離さない。感情移入しすぎて読み終えたときには達成感が頭に残るほど。それだけ読みやすくてもっと読みたい感情にしてくれる、非常に痛快な作品だった。読んでよかった。
ゆうき
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